○ストックオプション制度は本当に得な制度か
「ストックオプション」とは、自社株の株価上昇を活用した報酬制度の一種といえます。米国において「ストックオプション」は積極的に活用されています、とくにソフトウェアなどの情報サービス産業や多くのハイテク産業など、ベンチャー企業における経営手法の一つに組み込まれ、経営幹部をはじめ従業員の企業家精神の高揚に貢献してきた部分があります。わが国でも、「ストックオプション」を導入する企業は公開・非公開企業を問わず多くあります。人件費コストを抑えながら、なおかつ優秀な人材を確保することを可能とする「ストックオプション」は、企業自身にとっても相当に魅力的な制度となっています。

@ストックオプション制度とは
ストックオプション制度とは「取締役や従業員が、あらかじめ定められた価額(権利行使価額)で会社の株式を取得することのできる権利」のことです。権利を付与された取締役や従業員は、将来において株価が上昇した時点で権利の行使を行い、会社の株式を取得します。そして、当該株式を売却することにより、株価上昇分の差益を報酬として得ることができるのです。報酬額が企業の業績向上にともなう株価上昇と直接連動しているため、権利を付与された取締役や従業員の株価に対する意識は極めて高いものとなります。つまりストックオプションは、業績向上へのインセンティブとなるわけです。また、業績向上は株価上昇につながるのが一般的ですから、既存株主にも利益をもたらす制度がストックオプションといえます。

Aストックオプション制度のメリットは
・企業(経営者側) のメリット
「業績が上がれば所得も増える」
従業員が一生懸命努力して業績が上がれば会社の業績が上がり、社員の所得が増え、株価も上昇し、社員の愛社精神が高まる。
「報酬コスト(従業員に対して支払う給料)の低減」
権利の付与により、株価上昇にともなう差益として手にする報酬は、株式市場から提供されることになります。よって、株価上昇が大きなもので報酬額が増大しても、会社が負うコストは変わりません。会社からすれば、コストの発生を見ることなく活用できる成功報酬制度といえます。
「人材確保と流出の予防」
役員・従業員にしてみれば巨額な報酬は大きな魅力です。ストックオプションなら株価上昇がもたらす莫大な報酬額を、役員・従業員に与えることも可能となり、報酬額の面から有能な人材を確保したくてもできないでいる企業にとって、人材採用の点からも大きな魅力があるはずです。また、ストックオプションを活用した成功報酬制度は、優秀な人材の確保だけでなく、人材流出防止のためにも大きな効果を上げてくれます。

・従業員側のメリット
「業績(株価)が上がれば所得も増える」
従業員が一生懸命努力して業績が上がれば会社の業績が上がり、社員の所得が増え、株価も上昇する。そうすれば報酬も増えたことになる。

Bストックオプション制度のデメリットは

・「誰もが納得する明確な基準でストックオプションの付与がなされているか」
ストックオプション制度を上手く運用するためには明確でかつ合理的な基準に基づいた付与基準がなければ従業員の士気に関わることになります。例えば「社長の友人だから」「社長の親族だから」「長い間勤務しているから(勤続年数が長いから)」と言う理由だけでたいした貢献もしていないのにたくさんのオプションを手にしたりする人がいると、社員の志気も下がるでしょう。当然ですが、業績向上や株価上昇に貢献した人に正当に報いる付与基準であることが絶対に必要です。ストックオプション制度はそもそも優秀な人材を獲得し、流出させないようにするための制度です。正しい運用をしないなら制度そのものを導入しない方がいい。

・「株価しだいで社員の士気に影響が出る」

ストックオプションで役員・従業員が期待したとおりの報酬を手にするためには、株価の上昇が予定以上に続かなければなりません。極めて近い将来の株価ならまだしも、何年も先の株価を予定以上の価格に維持していくのは簡単といえることではないでしょう。運悪く株価が付与後に上昇せず、期待したような利益が得られない(場合によっては利益ゼロ)ようなケースでは、役員・従業員に失望感が広がり、志気が一気に低下する可能性も大です(株価がさえない動きをする→給料が期待していた以上にあがらない→社員の間に嫌な雰囲気が漂う(優秀な人材が退職する可能性が出てくる)→株価が下落する→結果的に財産が目減りすると言った悪循環に陥るケースがある)。

・「会社が倒産した場合、財産がゼロになる可能性が高い」
株価が怪しい動きをする(あまり上がらない)場合ならまだましである。もし会社が破綻した場合どうなるのか知っているだろうか。当然、株式は紙くず同然になってしまう。そんなことはないと思っている人がいるかもしれないがその考え方は甘い。民間企業である以上破綻する可能性がある。実際山一證券や北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行、マイカル、最近の実例で言えばJAL、リーマンブラザースのケースを考えてみればよく分かる。就職人気企業ランキングの上位に入っていた会社ですら倒産することがある。そのことも考えておこう。

「株価しだいで社員の士気に影響が出る」「会社が倒産した場合、財産がゼロになる可能性が高い」という話を書いたついでに1つ書いておきたいことがある。実際、1999年から2000年にかけてのITバブルの時期にIT関連企業に勤務していた人の中には自社株の株価上昇だけで億万長者になった人もいたらしい。ただし、実際に会社が破綻してしまって財産が紙くずになった人も現実にいることは忘れてはいけない。

・経営陣や社員のモラルの低下
「株価の上昇=報酬増大」の方程式があるため、経営陣がともすると株価対策を最優先に考えるあまり、好ましくない決算操作(粉飾決算)を行ったりする可能性もあります。これはライブドアのケースを見れば分かると思う。

C終わりに
「自社株購入」「ストックオプション制度」が必ずしもいい制度とは言い切れない。もしどうしても「自社株購入」「ストックオプション制度」がよい制度だという考え方を変えたくないのならば無理をしてまでして考え方を変える必要性は無い。あくまでも1つの考え方を提示しているまでのことですから。





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